Google、Facebook、Amazon、YouTube、Apple。世界を代表するこれらのインターネット企業を知らない人は、もはやいないでしょう。しかし、これらの会社を率いている(率いていた)名だたる天才的な経営者たち、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、エリック・シュミット、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾス、そしてスティーブ・ジョブズには共通するたった1人のコーチがいた事はあまり知られていません。
ビル・キャンベルです。
Google execs reveal secrets to success they got from Silicon Valley’s ‘trillion dollar’ business coach
ビル・キャンベルです。
Google execs reveal secrets to success they got from Silicon Valley’s ‘trillion dollar’ business coach
ビル・キャンベルは、天才的経営者から絶大な信頼を得て、彼らの片腕となり、シリコンバレーにある多くの企業の成長を支えていました。
「1兆ドルコーチ」は、2016年に亡くなった奇跡のようなコーチ、ビル・キャンベルの教えを、彼の死後になって教え子たちが書いた本です(教え子といっても、書いたのは Google CEO だったエリック・シュミットを含めた超VIPなのですが・・・)
シリコンバレーの偉大なメンター、ビル・キャンベルが逝去。愛情あふれる追悼文が寄せられる
この本は、何か1つの結論に向かって、議論を展開するといると言うわけではなく、世界最高峰の企業の日常で起きていた様々なエピソードを紹介しながら、その時経営者たちはどのように考え、ビルがどのようにアドバイスをしたのかを紹介しています。
「How Google Works」の続編としての「1兆ドルコーチ」
この本を書いたのは、How Google Works の著者たちです。したがって、1兆ドルコーチは、How Google Works の続編とも言えます。
How Google Words では、スマート・クリエイティブと呼ばれる天才たちについて書かれていました。Google が、超優秀な人材を信じられないほどの待遇で雇い続けている理由が書かれています。
💡 How Google Works で書かれていたこと ・スマート・クリエイティブ = 専門性とビジネススキル、そして創造性を兼ね備えたスーパーマンのような人種 ・テクノロジーの力により、スマート・クリエイティブがかつてないほど大きなインパクトを与えられる世界になっている ・会社が成長したければ、そのような天才たちを惹きつけ続け、プロダクトを生み出し続けることが何より重要
しかし、スマート・クリエイティブを満足いく待遇で雇い続ければ会社はうまくいくのでしょうか?実はもう1つ大切なことが抜けていたのです。そしてこれこそが今回がこの本のテーマであり、生前のビル・キャンベルがコーチし続けたことでもあります。
💡生前のビル・キャンベルがコーチし続けたこと 「チームをコミュニティとして機能させる」 会社という組織を、意見のちがいは脇に置いて、個人のためではなく会社のためになることに全力で取り組む「コミュニティ」として機能させる。
ビルの考え方は日本的?
ビルが常に説き続けた「チームをコミュニティとして機能させる」という考えは、もしかしたら我々日本人のほうがイメージがつきやすいかもしれません。「個人の成果よりチームの成果を優先する」という考え方です。
この考え方は、日本の企業では当たり前のように言われています。自己犠牲を厭わず、組織全体の利益の最大化にコミットする、「全社員が経営者目線を持つ」「役割にかかわらず会社の成長に全力で貢献する」などという言葉は、日本企業ではよく聞く言葉です。
しかし、欧米の企業ではこの考え方はあまりありません。欧米では、企業が個人を雇い、個人は目標が設定され、それが計測され、それより評価され、契約に則って正当な報酬をもらうという考え方が一般的なためです。取締役は会社にコミットしますが、従業員はあまりそのような考えはありません。自己犠牲を払って会社のために無償で尽くす、組織の垣根を超えて会社全体の難題に自主的に取り組むという文化はあまりありません(と、よく言われますし、一般論であればそうだと思いますが、もちろんチーム・ファーストの高い視座で仕事に取り組んでる多くの欧米企業で働いている方もいることは言及しておきます)。
しかし、ビルはそこに真っ向から挑んでいくわけです。
マネージャー = 「役割にかかわらず会社(チーム)の成長に全力でコミットする」べきである
ビルのコーチングは、行動計画に関する確認
ビルが日々行っていたコーチングとは、経営戦略に対する問題というより、行動計画に関する確認の作業でした。
ビルが長期的な経営戦略の問題を取り上げることはめったになく、たとえあったとしても、その戦略を支える強力な行動計画があるかどうかを確かめるためにすぎなかった。
・会社がいま直面している危機は何か?
・どれくらい早く脱出できそうか?
・採用はどうなっている?
・チーム育成は進んでいるか?
・スタッフミーティングはどうだったか?
・全員からインプットを得たか?
・何が話題に出たか、出なかったか?
ビルが気にかけていたのは、会社がしっかり運営されているか、そして私たちがマネジャーとして成長しているかどうかだった。
ビルにとって、すべての軸は人にあります。だから人をマネージメントする立場の人たち(マネージャーやリーダー)に対して、徹底的に人を軸にした確認を行っていきます。
どんな会社の成功を支えるのも、人だ。マネジャーのいちばん大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことだ。われわれには成功を望み、大きなことを成し遂げる力を持ち、やる気に満ちて仕事に来る、とびきり優秀な人材がいる。優秀な人材は、持てるエネルギーを解放し、増幅できる環境でこそ成功する。マネジャーは「支援」「敬意」「信頼」を通じて、その環境を生み出すべきだ。
コミュニケーションが会社の運命を握る
人がすべてであり、チームの成功こそがすべてであると考えていたビルは、コミュニケーション(人と人がどのような場で、どのような話をすべきなのか?)が会社の運命を握ると考えていました。そのため、マネージャーが行う1on1とスタッフミーティング(チームミーティング)には並々ならぬこだわりを持っていたようです。
💡 スタッフミーティング(チームミーティング) ・全員に共通認識を持たせ、適切な議論を行い、意思決定を下す ・1on1 で解決出来そうな問題でも、スタッフミーティングで議論を話し合えば協力し合いながら難題に取り組むことができる
💡1on1 ・1on1は、部下が実力を発揮し、成長できるよう手助けできる最良の手段 ・1on1で話し合うことをじっくりと考え、時間をかけて準備するべき
その瞬間、目の前の相手にすべてを注ぐ
ビルは今この瞬間に真剣に向き合っていました。うわのそらでメールをチェックしながら話を聞いたり、時間を気にしたり、窓の外に目をやることもなかったそうです。これを読んで背筋がピンと伸びる思いがしました。
アル・ゴアはこのように書いています。
いま向き合っている相手に細心の注意を払うことの大切さ。相手に全神経を集中させ、じっくりと耳を傾けることの大切さををビルから学んだ。
そしてこうも書かれています。
もっと耳を傾ければ誰もがいまよりずっと賢くなれる。ただ言葉を聞き取るだけじゃない。相手が言いそうなことを先回りして考えたりせず、とにかく耳を傾けろ。
ビルがフットボールを子供に教えているときのこんなエピソードも紹介されています。
たまに練習中に呼び出し音が鳴ると、ビルはポケットからスマホを取り出して発信者を確認し、子供たちにそれをチラッと見せてから、スティーブ・ジョブズの電話に応えず、またポケットにしまった。「あの1時間の練習のあいだは、ビルにとって何より大切なのは僕らだということに一番シビれた」とある選手は言う。「ビルの全神経が僕らに注がれていた」。
ミーティングの前に念入りに準備をして、いざその瞬間になれば全身全霊で相手の言葉に耳を傾ける。発見や洞察を促す質問を投げ、本当の問題に気づかせる。これがビルが考えたコミュニケーションのスタイルです。
議題を持たないCEOは去れ、準備をしない取締役も去れ
ビルは、取締役や取締役会に対しても、より高いレベルの規律を求めていました。
CEOは取締役や取締役会を取り仕切るべきであり、CEOが議題を持たない、持っていてもそれを取締役会の議論に持ってこないのであれば、意味はないと考えていました。CEOは会議の前までに必要な資料を全て準備し、それを事前に全員に送付し、各取締役はそれを会議の前までに読み込んでくることを求め、その宿題を行わない取締役は、会議に出る資格がないと糾弾します。
ある会社の取締役が、いつも取締役会の資料を読んでこず、資料に書いてあることを質問ばかりしていた。それを問題だと思った別の取締役がビルに相談をしたときにビルの放った一言は「クビにしろ」でした。
😠 ビルが取締役会に求めたもの ・CEOは、取締役と取締役会を仕切る義務を負う ・取締役は、事前に必要な資料をすべて読み込む必要がある
合議制にしない意思決定
ビルは、民主主義を好みませんでした。コンセンサス(合議制)を嫌ったそうです。合議制を目指すと、経営者へのロビー活動が上手い人の意見が通りやすくなり、部下は上司に意見を通すために終始し、意思決定の質が低下してしまうからです。
ビルは徹底的に意思決定の質に拘りました。ビルが好んだのは、チームとしてその問いに対する最適解を得ることでした。ここでもキーワードはチームです。
最適解を得るには、すべての意見とアイデアを俎上に載せ、グループ全体で話し合うのがいちばんだ。正直に問題を公開し、とりわけ不満が出ているような場合には、率直な意見を述べる機会を全員に与える。
全員に忌憚のない意見を促すために、ビルはミーティングの前にメンバー一人ひとりと膝を交えて、彼らの胸の内を知ろうとした。おかげでビルは問題をさまざまな視点から捉えられたし、なにより全員が、自分の見解を述べる準備ができた状態でミーティングに臨むことができた。ビルと事前に話すことで、全体で議論を交わす前に自分の考えや意見をまとめる機会を得たのだ。会議室に来たときには全員がすでに自分の意見をじっくり考え、話し合い、発表できる状態にあった。
もしマネージャーの中に着地すべき答えがあったら?
もしマネージャーの中に着地すべき答えがあっても、マネージャーは最後に話すべきであると主張しています。なぜならマネージャーが最初に話してしまうと、力を合わせて最適解を得るチャンスをチームから奪ってしまうからです。
正しい答えにたどりつくのは大事だが、チームみんなでそこにたどりつくプロセスも同じくらい大事だ
もし最適解が生まれなかったら?
もしチームとしていくら話し合っても最適解が生まれなかったらどうすべきでしょうか?ビルは、マネージャーが決定を下すべきであると主張していました。それを本書ではこのように表現しています。
「マネジャーの仕事は議論に決着をつけることと、部下をよりよい人間にすることだ」とビルは言った。
『この方針で行くぞ。下らん議論はおしまいだ。以上』と宣言するんだ
決定を下さないのは、誤った決定を下すよりたちが悪い
円卓に上座はないが、その背後には玉座がなくてはならない
プロダクトがすべてに優先する
会社の経営方針に対しては、多くを口を出さなかったビルですが、1点だけプロダクトに関してだけは強固な信念を持っていました。プロダクトの実現こそが会社の存在意義であるとビルは考えていました。プロダクトチームもそれ以外のチームも「プロダクト」のことをとにかく考えるべきであり、そのためにプロダクトチームやエンジニアには絶大な権限を与えるべきであると考えていました。
それ以外のチームは、彼らがより良い仕事をするためにマーケットに関する情報提供に徹することが大切であり、彼らにやることを指図することなどあってはならず、彼らのスピードを阻害するものをすべて除く必要があると考えていました。
「会社の存在意義は、プロダクトのビジョンを実現することにこそある」と、あるカンファレンスでビルは言った。「それ以外の全要素 — — 財務、セールス、マーケティングなどは、プロダクトを世に送り出し、成功させるためのものだ」
どんな人をコーチしていたのか?
ビルは誰にでもコーチをしていたわけではありません。もちろん役職や報酬でコーチングをするのかをきめていたわけでもありません。彼は彼のコーチングを受け入れられるのか?というテストに合格した者のみをコーチングしていたのです。そしてそのテストに合格すれば(コーチングを受け入れられる=コーチャブルと認定されれば)、ビルは誠意を尽くしてコーチングをしました。
ビルの仕事は、人をよりよくすることだけだ。ただし、それは相手がコーチャブルな場合に限る。
ビルは、コーチャブルな人をこのように定義し、条件を4つ提示しました。
👍 コーチャブルな人 自分よりも大きいものの一部になれる人。巨大なエゴの持ち主であっても、重要な大義のために貢献することができる人。会社やチームという、自分よりも大きなものに献身できるリーダーシップがある人。
👫 コーチャブルな人の条件 ・正直さと謙虚さ ・諦めずに努力を厭わない姿勢 ・常に学ぼうとする姿勢
本書では、Google の採用面接で、ビルが「コーチングを受け入れられるか?」という質問に「コーチによりますね」と答えた候補者が不採用一歩手前になったエピソードが紹介されています。傲慢さや自己中心的な考え、嘘つきをビルは徹底的に嫌いました。
リーダーにふさわしいのは好奇心旺盛で、新しいことを学ぶ意欲に溢れた人物だ。利口ぶった傲慢な野郎は願い下げだ
ビルが行っていたこと
ビルが行っていたことは、とても当たり前のことでありながら、誰もができないことでもありました。そんな難易度が高い当たり前を求めていました。
・信頼を築く ・信頼を時間をかけて深めていく ・コーチする相手を選び抜き、コーチングを受け入れる姿勢のある、謙虚で向上心旺盛な、生涯を通じて学び続ける意欲のある人だけをコーチする ・相手の話に一心に耳を傾ける ・何をすべきかは指図せず、物語を語って聞かせ、そこから結論を引き出させる ・完璧に率直になり、相手にも同じことを求める ・相手にとてつもない信頼を寄せ、高い目標を設け、勇気の伝道師になる
ビルが求めた4+1つの資質
ビルは面接を行う際に4つ+1つの資質を確認していました。
👊 ビルが確認していた4つの資質 1. 様々な分野の話を素早く取り入れ、たとえかけ離れた物であっても、それらをつなげる能力(=知性) 2. 勤勉であること 3. 誠実であること 4. 打ちのめされても立ち上がり、再びトライする情熱と根気強さ(=グリッド)
👊 ビルが確認していたもう1つの資質 = チーム・ファーストの姿勢
Bottom Line: 成果に対する厳格な視点と、チームを心から信じる勇気、それを実現するために人を愛する力
この本を読んで感じたことは、ビルの成果に対する厳格な視点、チームを心から信じる勇気、そしてそれを実現するために人を愛する力です。
ビルは所々で一貫して成果に対するコミットを求めています。
重要なのは短期目標の達成ではない、オペレーショナル・エクセレンスが少しでも欠けた状態を許さない文化を醸成することだ。株主のためだけでなく、チームや顧客のためにも、結果を出すのが経営陣の仕事だ。
ビルは、企業経営が結果ありきのゲームであることを周知徹底するのがとてもうまかった。みんなでチーム文化をつくりあげるが、その目的はあくまで結果を出すことにある。
そしてチームは常に個人に優先されると勇気を持って伝えます。
ビルが指針とした原則は「チーム最優先」であり、彼が人々に何よりも求め、期待したのは、「チーム・ファースト」の姿勢だった
メンバー全員がチームに忠実で、必要とあらば個人よりもチームの目標を優先させなければ、チームの成功はおぼつかない。チームを勝たせることが最優先事項でなければならない。
一方で、チームのメンバー1人1人については、信じられないほどの愛を注いでもいいます。
誰かを辞めさせなくてはならないときは、手当をはずみ、手厚く扱い、功績に感謝せよ
高い報酬は愛と敬意の証であり、社員を会社の目標に強く結びつける
信頼とは「約束を守ること」だ。ビルに何かをすると言ったら、それは守らなくてはならない。ビルも同じだ。彼はいつでも約束を守った。
「信頼とは「誠意」だ。お互いに対し、またお互いの家族や友人、チームや会社に対し、誠意を尽くすことをいう
スンダーピシャイがGoogleのCEOになったときにアドバイスをもらった。「CEOの立場に立ったら、今まで以上に人に賭けろ。チームを選べ。人とチームのことをもっと考えろ」
人を大切にするには、人に関心を持たなければならない。
時間や人脈などの資源を、人のために惜しみなく使え
この本には、これら以外にも様々なエピソードと、そのときのビルのアドバイスが紹介されています。天才と言われた数々の経営者たちを支えていたのは、最も難しく、もっともシンプルな宝石のようなアドバイスでした。
追記
これを書き終えて、何かモヤモヤした部分があったのですが、これらが原因だったのかも。