Shoho Kozawa

April 5, 2023

賃金を上げるために一番必要なこと

現在、日本では物価がすごいスピードで上がっています。食料品から電気代まで、ほとんどの商品が値上げされ、日本の過去10年間の物価上昇率は約25%に達しています。

いつも言われることですが、物価の上昇に比べて、賃金はどうやら思ったように上がっていません。我々の賃金を上げるためにはどうしたらいいのでしょうか?

どうやら

  • 売上が上がれば給与が上がる
  • 利益が上がれば給与は上がる
  • 株価が上がれば給与が上がる

このように考えている人が多くいるようです。自分の会社がもっと儲かれば給与は上がるのだ。だからもっと会社にコミットして売り上げを上げるのだと。

しかし、残念ながらそれらは、会社があなたの給与が上げられる理由であって、あなたの給与が上がる理由にはなりません。なぜなら、給与水準は外的環境でのみ変化するからです。

15年ほど前、都内のコンビニや牛丼屋で働く従業員の時給はせいぜい800-1000円程度でした。しかしながら、現在では都内の飲食店アルバイトといえば1200円程度の時給が普通であり、深夜勤務なら1500円程度の時給も一般的になっています。リクルートジョブズが発表している三大都市圏の時給推移を見ると明らかに上がっています。



なぜこんなにも時給が上がっているかというと、経営者が慈悲の心からバイトの時給を上げているわけでもなければ、会社の業績が上がったためにボーナスとして時給をあげているわけでもありません。

理由は、

  • 最低賃金が上がっている
  • 時給を上げないと従業員が来てくれない
  • 時給を上げないと従業員が辞めてしまう

という3点です。

つまり、経営者の意思でも優しさでもなく、猛烈な人材不足というマーケットの変化によって、賃金の上昇は起きているわけです。

2011年、DeNAという会社が新卒エンジニアを1,000万円で募集して話題になりました。その2週間後、競合のグリーが2013年度採用の募集要項で新卒に年収最大1,500万円を支払うと発表しました。グリーとDeNAのエンジニア獲得戦争です。この戦いがエンジニア市場にもたらした影響は計り知れず、日本のエンジニアの市場価値が急速に高まりました。給与以外でも多大な影響をもたらし、多くの人材がインターネット業界に流入、他社も1000万までは言わないまでもこの方向性は追従、今では当たり前となった「エンジニアを優遇する文化」はここから始まりました。

では、この2社がなぜ新卒の給与を一気に上げるようなことをしたのでしょうか?

それはエンジニアの需要が高騰していたからです。この当時、スマートフォンのアプリ市場はとんでもないことになっていました。とにかく各社が優秀なエンジニアを囲い、高速でサービス展開していかなければ生き残れない時代だったのです。需要と供給のバランスです。すべてはマーケットが決めています

これまでスタートアップ企業に転職する場合、給与を下げる代わりにストックオプションを得ることが通常でした。しかしこの数年、スタートアップ企業が調達できる資金が増えたことで、社員に支払う給与が向上し、驚くべきことに大手企業と同等の水準で給与をもらいながら、ストックオプションも得ることができるようになりました。

参考:スタートアップ年収、上場企業を7%上回る 650万円

スタートアップ企業の平均的な給与が上昇すると、人材放出側のレガシー企業もなんとか引き留めるために給与水準を見直します。その結果マクロ的には賃金水準が向上することになります。

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非常に多くの人が誤解されていることがあります。それは、売上が上がったり、利益が上がったり、株価が上がったら、賃金が上がるという幻想です売上が上がったり、利益が上がったり、株価が上がっても大幅に給与が上がることはないのです。なぜなら、給与水準は経営者ではなく市場が決定するからです

たしかに、あなたの上司はそう言うかもしれません。

「うちの売上を見てくれ。こんなんじゃ給与なんて上げられないよ。もっと頑張って事業を成長させよう」

実はこれは正しい側面もあります。いくら人材不足でも会社の売上や利益が伸びてないと、そもそも給与は上げられないからです。中小の町工場は常に人材不足ですが、年収2000万円では人を募集できません。それは、マーケットを追従できる体力がないからです。

しかしながら、会社の売上や利益が小さいことは給与が上げられない理由であって、たとえそれらが解決されたとしても、あなた個人の給与が劇的に上がるわけではありません

なぜなら何度も言う通り、賃金や待遇はマーケット、市場価値で決まるからです。

給与を上げるためには?


では、冒頭の「どうすれば給与水準が上がるのか?」に対する答えは何でしょうか?

答えは、辞めることです。

優秀な人が辞めると会社の給与は長期的には上がります。優秀な人が辞めて、退職面談で「もっと給与が高いところに行きます」と言えばいいです。そういう人が1人増え、2人増える。そうすれば

「やばい、待遇を改善しよう!」

というモメンタム(勢い)が起き、給与水準は上がります。かつてそんな人が大量に発生したエンジニア界が数年足らずでどれほど待遇が上がったのかを見れば一目瞭然です。

給与水準だけではありません。たとえば在宅勤務制度、時短勤務、子育てや介護のための定時変更、その他さまざまな制度や待遇、それらはすべて他社(つまり市場)との相対感で決まっていきます。自社の制度に不満がある人が増え、それを理由に退職する人(もしくは退職リスク)が増え、そして会社が本当に困ると長期的に待遇は改善していきます。

しかしここで最も大きな問題に直面します。そう、日本人はあまりに会社を辞めません。

日本以外の多くの国では、人々は本当にすぐに仕事を辞めます。本当にすぐに辞めます。嘘でしょ?っていうくらいすぐに辞めるんです。カルチャーや企業文化など関係なく、周りに迷惑をかけるかどうかも考えません。自分の市場価値を高めるため、自分の成長のため、もしくは自分や家族の幸福のために良い求人が見つかればすぐに転職します。低賃金、低待遇で働くことは負けだと考えられているからです。マーケットでの自分の価値(市場価値)を高めるために愚直です。会社が優秀な人材を辞めさせないためには、高い給与を出すことが必要なのです。同様に、他社から優秀な人材を引き抜くためにも、高い給与を提示することが必要です。そして市場原理に従って、給与は上昇していくのです。

企業は給与を上げるために、同じ人数で売上を上げる必要があります。企業は生産性を否応なしに高めないとやっていけないのです。だから生産性を高める努力をします。こうやって賃金と生産性の好循環が生まれます。

まとめ

まとめるとこうなります。

  • 売上が上がったり、利益が上がったり、株価が上がったら、自動的に賃金が上がるというのは幻想
  • なぜなら給与水準は経営者のやさしさで決まることはなく、常に市場(マーケット)が決定するから
  • 売上や利益や株価の低迷は給与が上がらない理由であって、それらが解決されたら自動的に給与が上がることを意味しない

もしあなたが給与に不満があるなら、思い切って辞めてみたらどうでしょうか。そして、少しでも自分を高く評価してくれるところを探してみたらどうでしょうか。それはあなたを救うためだけでなく、あなたの同僚を助けることにもなるのです。

この内容を話すと「私は給与よりも大切なことがあると思う」という反論を受けます。はい、100%同意します。「給与だけが会社を選ぶ基準であるべき」などとは決して思いませんし、そんなことは言っていません。良い経験をさせてもらえてるし、人間関係もいいし、待遇はそれほど良くないけど今の環境に満足しているなら十分です。

しかし「待遇に不満があるからもっと働いて今の会社の売上や利益を上げようとする」ことは多くの場合あまりに不幸です。あなたはやるべきは、自分の価値をあげて、給与の高い会社を探して、転職することなのです。

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