Shoho Kozawa

September 25, 2021

悪魔の証明

先日テレビを見ていたら、新型コロナウイルスのワクチンによる不妊の可能性についてこんなやりとりを見ました。

医師: 新型コロナウイルスのワクチンによって不妊になるといったデータはどこにもなく、デマには本当に気をつけてください
コメンテーター: 不妊になるという噂は心配しています。世界にはワクチンを打って何年も経った人が1人もいないのに、なんで「影響がない」とわかるんですか?
医師: 動物実験やこの段階で可能なあらゆる試験において、その影響は否定されています。本来ワクチンとは因果関係がないけれども、不妊で悩んでる人はその原因をワクチンだと主張することもあると思いますが、その因果関係は科学的には証明されていません。
コメンテーター: 影響が100%ないとは言い切れないということですよね?心配です

「影響ないことを証明しろ」ということなので、知っている人は知っている、悪魔の証明(消極的事実の証明)というやつです。

探索範囲が多い場合、何かがないことの証明を求めることは無意味です。なぜならそんなことはできないからです。ツチノコや雪男やネッシーの存在は否定できていません。「地球上のあらゆる場所を探索したのか?」という反論に答えられないからです。

ある食品が「健康に良い」「健康に悪い」は比較的簡単に証明できても、「ある食品が健康に影響がない」を証明するのはほぼ不可能です。体のありとあらゆる機能が任意の瞬間を切り取っても全く影響がないことを証明しないといけないからてす。

「何かがないこと」を証明することは大抵の場合ほぼ不可能、もしくは可能でも大変難しいのです。

これを悪魔の証明と言います。

「存在しないのかわからない」≠ 「存在する」


一方で、存在しないことを証明できないからといって、存在するということにもなりません。

ツチノコが存在しないことを証明できないからといって、ツチノコが存在するということにはならない

のと同じです。

これはよく交渉術(責任転嫁)としても使われます。「それだけ存在しないというなら証明してみろ!ほらできないじゃないか!やはり存在するんだよ」といった具合です。

何かが存在することを主張する場合、「存在する」と主張する側が、存在することを証明する責任を負います。「存在しない」と主張する側が存在を否定するために論証する責任はありません。しかし、論理のすり替えを行なって相手に「存在しないこと」の論証を迫り、それができないことをもって「存在する」と主張するやり方はよくあります。多くの交渉の場面で使われる手法なので注意が必要です。

可能性の話

何かがないことを証明する場合、冒頭の話にもある「因果関係は科学的には証明されていません」というのが限界です。「今のところ存在を証明する事実はない」ということ以上のことは言えません。どれだけ待っても「存在しない証明」は出てきません。待つだけムダです。つまり「何かがない」ということは可能性の話なのです。事実を積み重ねることによって、存在する可能性が1%から0.001%になることはあっても、ゼロにはできません。

ツチノコやネッシーがいるという科学的な証明(つまり見たという事例)は現在のところありません。これをもって「いない」とは言えませんが、「いる可能性」はほぼ限りなくゼロだというのが社会のコンセンサスとなっています。それをマクロ的に見れば「いない」というわけです。

他人に「存在しない証明」を求める行為は、起きない奇跡を待ち続けることと同じです。

そんな無駄なことをするより、可能性の議論として切り分けて、これまでに積み上がっている科学的事実を整理して、可能性から考えた時の自分なりの結論を持つこと、つまり、

とりあえず今のところ存在する事例はないのだから「存在しない」確率の方が遥かに高いわけで、「存在しないもの」として前に進む

どれだけ時間をかけても誰も証明はできないことは知っているが、存在する可能性を自分の意思で信じ続ける(多くの場合は科学的な結論というより、その人の信仰や思想によるものとなります)

どちらにするのかを自分の意思で決めることの方が大切だと思います。

誰かがいつか証明してくれるまで待つ

という選択肢は、まったく無意味です。

ちなみに、わたし個人はワクチンが不妊に影響する可能性は考える必要がないし、デマや変な主張に騙されず厚生労働省CDCの結論を真っ当に信じた方がいいという立場ですが、ここで言いたいことは「ワクチンと不妊」に関する話ではなく、「悪魔の証明を求める無意味さ」なので、念のため。

お読みいただきありがとうございました😀

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