Shoho Kozawa

May 19, 2024

退職代行サービスの謎と自分の身を守る方法

退職代行サービスとやらが流行っているそうです。

「会社と合わない」 退職代行サービスに早くも新卒の依頼殺到 SNSで違和感増幅

確かに友達にも「辞めたいんだけど退職を言いづらくて…」って人がいるから、そういうニーズがあることはよくわかります。

この退職代行について普通によくわからないのが、退職代行なんていう何の資格もない企業からいきなり電話かかってきて「Aさんが辞めたいらしいですよー」って言われて企業はどうやって処理してるんだろうということです。

悪意ある第三者の嫌がらせの可能性もあるし、なりすましの可能性もあるから本当に電話の先が退職代行会社の人かもわからないし、本当に本人に退職の意思があるのかがわからないわけです(たぶん本人に連絡するなと言ってくるから)。

会社と従業員は秘密保持契約を結んでいるはずなので、雇用契約に加えて個人情報保護にも関わる話です。実態として可能性が1%もなくても、そのリスクがある限り普通はそのリスクを考えます。自分がもし会社してたら、弁護士以外から「Aさんが退職したいと申し出てまして」みたいなことを言われてもリスク高すぎて「本人か本人の代理人以外の方と契約に関するお話しをすることはできません」以外言えないと思います(経営者の方や専門家のご意見聞きたい)。

退職したいならすればいいし、退職させないとかマジ論外だと思うし、退職できない会社があることもわかるし、自分から言いたくない人がいることもわかります。

ただ、もし辞めたいけど自分でコミュニケーションしたくないなら、使うべきは退職代行会社ではなく、普通に弁護士さんだと思うのです。そういう交渉ごとをするために弁護士はいるので。

非弁行為は違法

この件に関わらず全員知っておいたほうがいいのは、どんなに凄そうな企業だろうが、詳しい個人だろうが、弁護士資格のない人が他人(顧客だろうが友達だろうが)の代わりに自分の法律的な知識を使って法的な業務、たとえば契約書の確認や、第三者との交渉、法的なアドバイスなんかを報酬をもらって行うことは非弁行為といって違法だということです

過去には不動産会社がオーナーの代わりに良かれと思って立ち退き交渉をしてしまって裁判で非弁行為になったことがありました。もしくは、過払金請求で行政書士が非弁行為で懲戒処分になったこともありますし、過払金返還が棄却されたこともあります。依頼者が弁護士じゃないって知ってて返還請求しても無効ということです。この依頼者からすると過払金が返還されないってことで踏んだり蹴ったりだと思います(まあ、本人が悪いんですけどね)

なので、非弁行為はマジでリスクあるから要注意です。

何度も言いますが、基本的に他人との交渉ごとや法的アドバイスは、報酬をもらうのであれば、法律で認められた例外(たとえば少額であれば行政書士とか、税分野の税理士とか)を除いて弁護士以外できません

非弁提携行為も違法

次にだいたい思いつくのは、「じゃあ、弁護士を紹介して、実際の法的なアドバイスは弁護士にさせればいいじゃん」というパターンです。「揉めた場合は専門の弁護士を紹介します」のパターンです。残念ながら、それも弁護士法で禁止されてます。かつかなり強く禁止されてます。

弁護士が弁護士以外と報酬を分配したり、弁護士以外から紹介料をもらって事件の紹介をうけることは全て禁止されています。もちろん逆に弁護士以外が弁護士を紹介することも禁止されてます。お礼とかのスキームもダメです。これを非弁連携といいます。非弁連携行為は刑事罰があります。

もし何かのコンサルサービスに「専門家の紹介」とか「弁護士との連携」とか書かれている場合は要注意です。

弁護士が弁護士ではない人と紹介スキームを作って報酬をキックバックするようなことをしたり、紹介料を払ったり、名義だけ貸すようなことをして実質的な法律に関わる業務を弁護士じゃない人にさせるようなことは、すべて違法です。

参考: 隣接士業・非弁活動・非弁提携対策(業際・非弁・非弁提携問題等対策本部) 日弁連
参考: 本当に怖い非弁提携 東京第二弁護士会
参考: 非弁行為とは?弁護士72条違反行為をわかりやすく解説

これって非弁連携だよね?と思うようなことがあれば、東京であればここから通報することができます。なんであれ、弁護士会が見つけ出そうとするくらい邪悪ということです。そしてこれは刑事罰なので最終的には警察が逮捕することができます。


面白い例 - 交通事故の場合

非弁行為で一番に思い当たるのは「安心してください。事故の時には私たちが相手の方とお話しします」という自動車保険のCMのパターンです。「相手と話してくれるカスタマーサポートみたいな人は弁護士じゃないよね?それなのに代理人として話すのはダメじゃない?」という疑問がわいてきます。はじめ自分もそう思いました。

しかし、実はこれは非弁行為にならないとされてます。なぜかというと、保険に入ってる人が事故を起こすと、その保険会社が最終的には被害を被るわけです。揉めた場合、相手が本人ではなく保険会社に対して損害賠償を直接請求する可能性もあります。つまり簡単に言えば、保険会社はその当事者なわけです。となると、それは自分自身の権利や義務に関する交渉で非弁行為ではないという整理になっているそうです。

逆に駐車中の車にぶつけられたみたいなパターンで0対100の場合は、保険会社が当事者にはなり得ませんので、相手とは絶対話してくれません。それは非弁行為になる可能性があることを知ってるからです。

自分の身を守るために

この非弁行為や非弁連携行為の恐ろしいところは、刑事罰があるところに加えて、依頼者側が最後は切り捨てられる可能性があることだと思います。

正直ここに書いてるようなことは、だいたいどんな会社も知ってる基礎のキなので、契約上は「法律的なアドバイスや交渉をしたわけではない」「法的責任は追わない」などいろいろ書かれているはずです。たぶんすごく小さな字です。

サービスに「弁護士の監修を受けた上で」とか書かれている場合もありますし、もしくは弁護士の名前が載ってたりする場合もあります。だけども、あれは「だからあなたをその弁護士が守ります」という意味では全くありません。だって、その弁護士さんにとっての依頼人はあなたではなく、そのサービスを提供してる会社ですから。

結局はどれだけあなたのためにがんばりますと書いてても、最後は弁護士でもない人があなたの代理人にはなれません。あなたの権利を守ってはくれないんです。

弁護士ってすごくて、弁護士は税理士も行政書士も司法書士も全部できます。弁護士は、法律に関わる業務をほぼ独占的に行うことができるように日本では保護されています。それは弁護士というのが極めて公益にとって大切だからです。その裏返しとして、非弁行為禁止や非弁連携行為禁止も含めて様々なルール(非受任案件含めた守秘義務や、直接交渉禁止の通知、コンフリクトチェックなど)が厳格に決まっています。

ぼくは別に弁護士ラブなわけではないですし、退職代行サービスに恨みがあるわけでもないですが、やっぱり専門家が専門家たる所以っていうのはあると思っています(なんちゃって専門家はもちろん除きますよ)。特に弁護士や医師なんかはすごいです。

困ったらキチンと専門家に相談すること。それは弁護士ではなくても、税理士、医師、歯科医師、そういう人たちのコンサルティングを受けることです。ニキビが気になったら変な美容エステとかにに行かずに皮膚科に行きましょう。「なんちゃって企業」とか「なんちゃってサービス」「なんちゃって資格を持ってる人」「ただの自称専門家」などに安易に飛びつかないこと、大手企業だからといってホイホイと信用しないこと、いい専門家を探す目を養うこと、そういう姿勢が、長い人生において自分の身を確実に守る方法だと思っています。

最後になりますが、この記事はあらゆる法律的なアドバイスには該当しません。また、この記事の内容によって発生したあらゆる損害に対して著者は責任を負いません。法律に関する相談は、法律の専門家にお尋ねください。

↑こうなっちゃうんですよ。みんなこうやって最後は自分の身を守れるようにしてます。だから、やっぱり、困ったら弁護士に相談しましょうね。

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