Shoho Kozawa

June 14, 2021

メールよりチャットのほうがいい?本当に?

メールが Skype や Google Chat、 Slack などのチャットサービスにどんどん置き換わっているそうです。今の新卒世代の中にはメールアドレスを持っておらず、採用などの連絡も全部 LINE や Facebook Messenger で行って欲しいという人もいると聞いています。メールは古い人間が使うツールのようで、どんどん肩身が狭くなっていきます。

私はどちらかというと仕事ではメールが好きで、チャットはあまり好きではありません。前職では、Slack がどんどん市民権を得て、私が退職するくらいの時には、全社のアナウンスなども Slack で行われるようになりました。私が Slack があまり好きではないというと、大抵とても驚かれました。

チャットがあまり好きではない2つの理由

チャットがあまり好きではない理由は2つあります。

1つ目は、よく言われるとおり「同期コミュニケーション」になるからです。レスポンスの即時性を(自分が知らないところで勝手に)期待されるので、常に追われることになります。

2つ目は、情報が分散するからです。大抵チャットは情報が分散します。チャットだけでその議論の背景や前提条件、全体像を確認しながら話を進めることはすごく難しい。チャネルは(大抵)分散するし、ゴールも不明確だし、終わりも見えないし、なんとなくチャットが止まったら結論のような気がする。何が前提で、何が始まりで、いつが終わりで、何がコンセンサスなのか、よくわからない。

誤解なきように言っておくと、チャットサービスは便利です。「今日ランチ行ける人?」「このニュース見た?」「このチケットをAssignしといたからよろしくー」など、軽いコミュニケーションのキャッチボールをするには、メールよりチャットのほうが便利です。プライベートで友人と食事の調整をしたり、ちょっと誰かに話しかける時に LINE や Messenger などを使えるのはすごく便利だと思います。私も毎日使っているし、少ない限られた人数でワイワイ運用する分にはとても便利なツールです。

しかし、そんなカジュアルな任意のツールであるチャットサービスが、オフィシャルなコミュニケーション手段、もっとひどいと「議論をするためのプラットフォーム」にどんどん変わっていくと、私にとっては、情報がリアルタイムで断片的に勝手に流れてきて、自分もそれに乗っかることが期待される恐ろしいツールになります。

チャットサービスだって非同期にできる?それは全員がそう思っていたらの話

「チャットだって非同期コミュニケーション(リアルタイムじゃないコミュニケーション)にできますよ。見たくないチャネルはミュートすればいいだけだし」

よく言われます。確かにそうです。見たくないチャネルはミュートすればいい。

実は Slack もこのように言っています。

そんななかで、Slackが「意図的に」採用しない機能がいくつか存在する。例えば、競合では採用されているような“メッセージの既読表示機能”や、メールのような“予約投稿機能”は実装していない。

ヘンダーソンさんはいずれも「検討したことはある」としつつも、既読表示機能については「いわゆる“既読スルー”など、既読表示によって利用者がプレッシャーを感じてしまうのではないか」、予約投稿については「いつでも送信できる、受け手は通知をオフにできるというSlackの強みに対して本当に必要か」という課題があるという。

実は Slack も、すべての人があらゆるチャネルを見ていることを前提にはしてないし、受け手に情報の選択権があることを前提にサービスの開発をしているのです。

つまり「全員が Slack を常に見ていて、自分のチャネルを追っている」前提で運用をしているチームは、グリーンでドライバーを使っているようなものです。取扱説明書通りに使ってない。

しかし、これをチャットサービスを利用する全ての人が(すべての人です。社員100人で運用してるなら、その100人全員が)本当に理解してるでしょうか?

そのチャットを使っている全ての人が、たとえば

  • 自分の同僚がこのチャネルに入っていないかもしれない
  • 自分の同僚がこのチャネルに入っているけどミュートしているかもしれない
  • 大切な話題は、事前に取り決めた、しかるべきコミュニケーションチャネルを使わないといけない
  • 自分の同僚が今日は有給かもしれないし、今は忙しいかもしれない

などということをちゃんと理解して運用していたら、うまく機能するかもしれません。

しかし、大抵の場合崩壊します。

誰かが「勉強会」用のチャネルで、これからのプロダクトの方向性に関わる重要な話題をいきなりぶち込んできて、自分がランチに行っていた1時間の間に、そこで膨大な議論されていたらどうでしょう?本来は無視していいチャネルなのに、それをわざわざ戻って全部読まないといけないとしたら?そんな経験、1度や2度じゃないはずです。

もしくは、有給を取った時に Slack がどんどん進んでいくことにすごく不安になった人はいませんか?すごく不安になって、せっかくディズニーランドに来ているのに待ち時間30分おきに Slack を見ている人はいませんか?

もしあなたが有給を取っていることを前提に、誰かが Google Docs に議論をまとめておいてくれて

「本日あなたが有給の間にチャット次のような議論がありました。安心してください、あたなはいなかったので結論は保留しています。次の出勤日に見てください」

と送ってくれていればいいかもしれませんが、そんなことしてくれますか?多くの場合、リアルタイムで返信しないと乗り遅れることになり、もしかしたら、あなたが期待しない着地になっているかもしれないという恐怖心もある。だからスペースマウンテンの列で Slack を開くことになってしまう。

もしくは、ミーティングで「あのチャネルで議論されてた件ですが」と全員がチャットを読んでいることを前提として議論を進められたことはありませんか?もしくは自分が入っていないチャネルで @メンション されて「どう思いますか?」といった雑な相談をされた経験ありませんか?すでに読めないくらい膨大なチャネル数になっているのに、また1つチャネルを追加する。駅で待っている時、電車の中、ベットの中、常にチャットをチェック!チェック!チェック!

そんな経験が積もると、チャットサービスが嫌になります。

自分はいったいいくつのチャットを追わないといけないんだ?どれは絶対読まないといけなくて、どれは無視していいんだ?本来どのチャネルを見るかなんて任意だろ?誰か議論をまとめてくれ!勝手に議論を進めるな!考える時間をくれ!

ぼくはチャットを読みたいわけじゃない、自分のペースでちゃんと考えて仕事がしたいだけなんだ。

そんなことを思ってました。

当たり前ですが、メールなどの他のツールでもこれらのことは起こり得ますが、チャットだと、はるかに起こりやすいということです。

取り残される恐怖「FOMO」

FOMO という言葉をご存知でしょうか? Fear of Missing Out の略で「取り残される恐怖や不安」のことです。

Facebook のフィードや、Twitter、会社からの Slack、 LINE の連絡、リアルタイムのコミュニケーションを前提にしているツールに対して、常に確認をしないといけないという強迫観念のことをFOMOといいます。食事を楽しんでいても、スマホの画面に通知が来れば常に確認、トイレに立ったら会社のSlackを確認、取り残されないように常に確認をしないと気が済まなくなることです。

その前提となっている恐怖心はこのようなものです。

「もし自分がいない間にとても大切な話が進んでいたらどうしよう?」
「緊急の連絡が入っていたらどうしよう?」
「上司から連絡が来ていたらどうしよう?」

自分だけ取り残される恐怖、自分が見逃しているかもしれない恐怖、自分が上司からの期待に応えられないかもしれない恐怖、自分の期待とは違う方向に議論が勝手に進んでいるかもしれない恐怖、いろいろな恐怖により、人は常に情報を追いかけることになってしまうわけです。

マネージャーはFOMOを意識しないといけない

チームを持っている人は、このFOMOに特に意識を払わないといけません。なぜなら職位が低い人ほどFOMOに敏感だからです。たとえば社長や役員であれば、進捗 Meeting などで部下が重要な話を報告してくれます。報告したり相談したりすることが部下の役割でもあるし、一定以上の意思決定は自分を必ず通過するのでFOMOを感じることはほとんどないはずです。

しかし、部下は違います。部下はあなたからの情報を意図的に拾わないといけない。だからFOMOを感じやすくなります。夜でも返信がくるときは要注意です。マネージャーのあなたが何気なくベットの中から送っているチャットやメールを、常にリアルタイムで拾わないとと恐怖に怯えている可能性があるのです。

私がチームのコミュニケーションを円滑に進めるために行っている4つのこと

私が自分のチームに対して行っている4つの原則があります。

🌟1. 見て欲しい情報と、見なくていい情報を分ける

私のチームでは、絶対に見て欲しい情報はメールすることにしています。チャットを送る場合も

Tl;dr: 〇〇はXXX ということになりました。
詳細はメールしてますので見てください

とチャットします。決してチャットに詳細は書きません。こうやって情報の重要度によってツールをわけることで、自分が取り残されている恐怖心を払拭します。

チャットは Nice-to-Have (あったほうがいい)の情報だけ。知っていて損はないけど、知らなくても日々の業務には影響はないし、それを前提に会話しない。

「大丈夫、最低限メールだけ見てくれれば、あなたは取り残されることは絶対にありませんよ」

それがメッセージです。

🌟2. リアルタイムのレスポンスを期待しない

極めて特別な場合を除いて、どんなコミュニケーションチャネルでも(メールでもチャットでもチケットでも)決してリアルタイムのレスポンスは期待しません。その人が有給かもしれないし、子供の世話をしているかもしれないし、前の日に遅くまで働いていて、午前中は寝てるかもしれないし、なにより働いているかもしれないからです。

急ぎの場合は「できれば急ぎで」とチャットすることはあっても、それを拾うのか拾わないのかは職位にかかわらず個人に任せます。緊急時を除いて私からのチャットでも無視していいと伝えています。情報を拾う側が自分の優先順位を決めていいのです。

🌟3. チケットを超推奨

私のチームでは、チームの中だけでチケット管理システム(GitHub の Issue や、(私の敬愛する) BasecampAsanaのようなもの)を使っています。何かお願い事、質問などがあれば、なるべくチケットをあげるようにお願いしています。

なぜかというと

  • チケットをあげるときに作成者が背景を書くため、質問やタスクの内容が極めて明確になる
  • 担当者や期限が明確になる
  • ステータスが明確になる
  • 後から検索できるため、情報が蓄積できる

などいいこと尽くめだからです。メールだと「お疲れ様です」的な枕詞や、長ったらしい署名をどうしてもつけがちですが、それもありません。チケット最高!

チケットにはもちろんリアルタイム性もないし、通知はメールで飛ぶし、チームのメンバーが持っているタスク量も可視化されやすいし、どのくらい放置されているかもわかるし、いいことづくめです。

私のチームでは、私もチームメンバーに何かをお願いするときはチケットをあげます。特別待遇はなし。

そして、私も含めて担当をアサインするのに連絡不要というルールも作っています。「〇〇さん、申し訳ありませんがアサインしていいですか?」という連絡は一切不要!というルールです。これによって上司の私に対するタスクも、よくメンバーからアサインされます。それでいい!

よく「チケットあげといたんでお手隙でよろしくー👍」とチャットすることがあります。これが正しいチャットの使い方だと思います。

🌟4. 背景!背景!背景!背景を書け!

チャットでもメールでもチケットでも、どんなときでも背景を書こう!と伝えています。どんな背景でその話が出てきたのか?自分はどこまで調べたのか?どういうデータを持っているのか?どの程度重要なのか?いつまでに必要なのか?などの前提となるデータを、ちゃんと文章に整理してまとめて伝えるように推奨しています。特に重要なトピックについては、Google Doc にこれらをまとめることを推奨しています。

私がチャットでの議論を毛嫌いする最も大きな理由は、実はリアルタイム性ではなく、情報が断片的になるからなのです。

軽い質問1つでも、どの程度正確に応えないといけないのか?どこまで本人は調べたのか?どのくらい重要なのか?どの程度の裏付けデータが必要なのか?によって答えが変わります。多くの場合チャットだとこれらが実現できないのです。もっといえば、これらを知るためには結局過去のログを自分で読んで、コンテキストから、受け手がこれらを整理しないといけない。

しかし、チケットツールなら、発信者がその義務を負います。質問する側が背景をきちんとまとめて何をして欲しいのか?を伝える義務があるのです。考えてみればあたりまえです。

***

チャットを悪者のように書きましたが、もちろんうまく使っているチームもあると思うし、私が好きなチケットツールにも欠点はあります。要は、使用上の用法をよく守りましょうね、リアルタイムのレスポンスなど期待したらダメよ、そしてFOMOには要注意、ということです。

最後に、私が尊敬する Basecamp の NO HARD WORK より。

すぐに返事がもらえるという期待は、仕事をするうえで数多くの諍いの種になる。

誰かがあなたにメールを送るとする。数分たっても返事がないとき、その人はあなたにスマートフォンからメールを送る。それでも返事がなければ、電話をかけてくる。そして、誰かにあなたがどこにいるのかと尋ねる。するとその尋ねられた人も同じステップを踏んで、あなたの注意を引こうとする。

あなたは突然、自分がしている仕事から引き離される。その理由は?一大事が起こった?それならしかたがない。それなりの理由があるのだから。けれども一大事でないなら(たいていこっちなのだが)、返事をせかされる理由がない。

どういう状況であれ、ほぼいつもすぐ返答がもらえると期待するのは理不尽だ。ところがリアルタイムのコミュニケーション・ツール、とくにインスタント・メッセージやグループ・チャットなどが日々の仕事にだんだん忍びこんできていて、即座に返事がくるという状態が新たな常識になってしまった。

これは進歩なんかじゃない。

一般的な考えかたは次のようなものだ。僕がすぐメールを書けるのだから、きみもすぐ返事が書けるはず、だろう?技術的には正しいが、現実的にはまちがっている。

どれほど速くメッセージを送れるかは、どれほど速い返事を求めているかとは無関係だ。コミュニケーションの内容によってそれが決まる。緊急事態か?なるほど、先週送ったものをもう一度送ってほしいんだね?これは急ぎの用ではない。自分自身で探せるはずの質問の答えを求めている?それは急ぎではない。三日後にやってくるクライアントとの約束の時間を知りたい?それは急ぎではない。

ほぼすべてのメールやメッセージは緊急の用ではない。だから待つべきだ。

ベースキャンプでは、回答はすぐに来るものではなく、そのうちくるものという文化をせっせと育んできた。僕らの会社は、急ぎでない質問の答えが三時間後に届いても誰も怒らない。なんの邪魔もはいらないひとまとまりの時間のあいだに、メールやチャットやインスタント・メッセージをチェックしないでいることを許容する、いや、むしろ強く勧めている。

試してみるといい。チャットやメールを書いてから、仕事に戻る。返事を期待してはいけない。相手は時間があいて返事をする準備が整ったら、返事をくれるはずだ。

すぐに返事がもらえなくても、あなたを無視しているわけじゃない。おそらく彼らは働いているのだ。待っているあいだにできる仕事がほかにもあるだろう?

ゆっくり待てばいい。空は落ちてこないし、会社が倒産するわけじゃない。誰にとっても、より穏やかで、クールで、快適な会社になるだけだ。


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