僕が初めてバイトや給与といった雇用関係とは全く違う方法でお金を稼いだのは、社会人2年目の頃のことでした。何か自分でやってみたいという単純な好奇心からでした。

当時、僕が手掛けていたビジネスは、いわゆる「せどり」。海外からモノを買ってきて売るというシンプルな事業でした。仕入れ先はAmazonの米国サイト、Amazon.com。実は、Amazon.com には日本にも直接届けてくれる商品がたくさんあって、その中から「これだ！」と思える商品を選び、ヤフオクで販売していました。知り合いは、中国の工場に Skype で連絡を取って大量に買い付けたりしていましたが、自分にはそこまでのノウハウもバイタリティもなく、まずは小さくやってみました。

初めて目をつけたのは、ル・クルーゼ（Le Creuset）。カラフルな色使いが自分でも気に入っていたので選びました。Amazon.com では、当時の円高もあって、ル・クルーゼのマグカップが $7 程度、600～700円前後で売っていました。試しに2～3個出品したところ、すぐに売れました。思わず「これはいいな！」と思い、すぐに30～40個を仕入れてヤフオクに出すことにしました。それからマグカップ以外にも、包丁や醤油差しなんかも売り始めました。

ある日ヤフオクで、とある飲食店から「新規オープンにつきル・クルーゼのマグカップを50個注文したい」という連絡が入りました。即座にAmazonで発注し、取引はスムーズに成立。すごく嬉しかったことを覚えています。

もちろん、マグカップ1つあたりの利益は数百円程と大儲けできるわけではなく、月単位の売上はせいぜい数万円。しかし、リスクをとって自分で考え抜いた結果、実際にビジネスとして成立するという達成感は、どんな金額にも代えがたいものでした。

そんなこともあって、販売チャネルの拡大にも挑戦しました。ヤフオクだけでなく、Amazon.jp でも販売しようとしたのですが、そこで壁にぶつかりました。Amazon.jpでは、Amazonが直接配送する店舗の商品が優先表示されるため、どれだけ価格が安くても「ワンクリック注文」の対象になりませんでした。

いろいろと調べたところ、個人でもAmazonの倉庫から発送できる仕組み―FBA（Fulfillment by Amazon）が存在することを知りました。これは、Amazon.comから仕入れた商品をそのままAmazonの倉庫に送ると、Amazon仕入れの在庫としてカウントされ、Amazonの配送システムを利用できるという画期的なシステムです。家に在庫を抱える必要もなく、お客様Amazonのダンボールで届くという手軽さに、僕は「凄すぎる！」と感動したのを覚えています。一時期は、毎日のように Amazon.com からダンボールが届き、それをそのまま Amazon の FBH の倉庫に配送するということをやってました。

やがて、サラリーマンの忙しさとともに、このビジネスは次第に縮小し、気が付けばやめてしまったのですが、たった月に数万円の売上であっても、この経験は僕にとって計り知れない学びとなりました。

情報の力
僕はただAmazon.comで買っていただけなのに、世の中には「Amazon.comが日本に直接届けてくれる」という事実を知らない人がたくさんいる。FBA という仕組みがある。情報があれば、ビジネスチャンスは飛躍的に広がるのだと実感しました。

リスクをとる勇気
英語での購入やドル決済といったハードルがあったものの、リスクを引き受けることで新たな価値が生まれる。その体験が、自分の可能性を広げる大きな一歩となったのです。

トップでなくとも生き残るビジネスの可能性
実はその当時、楽天でも同じマグカップが売られていました。価格もほぼ同じ。それにもかかわらず、僕の出品を選んでくれる人が実際にいた。必ずしもマーケットのトップシェアを取らなくても、事業は成立するということを学びました。

そして何より大きかったことは、雇用以外で稼いだことがあるという経験を得ることができたことです。初めて誰にも指示されない、会社の看板も使えない、リスクもリターンも全部自己責任のビジネスの世界に足を踏み入れられたこと、その経験を得ることができたということ、それは変え難いものになりました。

今振り返ると、自分がなんとなくやりはじめた単純なせどりビジネスは、とてもいろいろなことを教えてくれた気がします。