Shoho Kozawa

December 3, 2023

需要と供給から考えるキャリア理論

先日、会社の同僚から、「自分のキャリアを作っていくために、これからどんなことが重要ですか?」という質問をうけました。私は「需要と供給をもっと意識するといいよ」という話をしました。需要と供給の話は、自分が子供にこれから1番学んで欲しいことの1つです。

経済学において、もっとも基礎的で重要なことは、需要と供給が重なるところで価格が形成されるということです。逆に言えば、需要と供給が重ならないところには価値は生まれません。どれだけ供給があっても、需要がなければそこに価値は生まれません。

キャリアにおける供給とはなんでしょうか?それはあなた自身です。あなたがマーケット、市場、会社、チームに対して提供している価値を供給と呼びます。たとえば、知識、経験、労働、時間、資格、専門性、価値観、そのようなものです。

では、キャリアにおける需要というのはなんでしょうか?それはマーケットが求めているものです。社会、企業、チームや上司、同僚、あなたの周りにあるものが求めていることです。言い換えればニーズです。これを需要と呼びます。

需要 = あなた自身
供給 = マーケットが求めているもの

変化の少ない状態では、需要(下図の濃い青)が変化する可能性のあるエリア(下図の薄青のエリア)はそれほど広くありません。言い換えれば、求められるものはそれほど変化しないということです。需要に対して自分が持っている価値を当てること、つまり青の需要に対して、黄色の供給を当てることは、それほど難しいことではありません。需要という的が動く範囲が狭いため、適当に矢を投げ込んでも大体当たるというわけです。

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一方で、変化が激しい世界を想像してみてください。現在の世界は VUCA と呼ばれます変化のスピードが早く、複雑性も高い状態です

  • Volatility (変動性)
  • Uncertainty (不確実性)
  • Complexity (複雑性)
  • Ambiguity (曖昧性)

VUCA の環境では、予想していないことが頻繁に起きます。昨日までこれが必要だったことが今日になると必要なくなるとか、先月までこの事業をしてたけれども撤退して次の新規事業に挑戦するとか、昨年まではこのサービスを提供してたけど、一気に戦略をピボットしてこっちに切り替えるとか、人員計画や採用計画の変更、M&Aなど、多くの意思決定がどんどん行われます。環境がどんどん変化するわけです

変化が激しい世界では、あなたの周りが求めること、つまり需要は大きく変化します。青の丸が動くエリアが一気に広がって、上下左右にビュンビュン動いているイメージを持ってください。
そのような変化が発生しやすい環境では、「供給」をマーケットの「需要」に当てることが極めて難しくなります。需要は広い範囲をビュンビュン動いているので、ちゃんと狙わないと当たらなくなります。適当にやってても需要に当たらないのです。その結果「会社やチーム、社会が求めてたのはそれじゃない」という状況に陥りやすくなります。

また、長い間特定の需要に対して供給を当て続けてきた人にとっては、急速に自分の価値が下がり始める可能性があります。なぜなら、変化が激しく、複雑性も増している世界では、需要が動くエリア(薄い青のエリア)がとても広く、その中を高速に需要が動くので、意識しておかないとこれまで価値を出せていたところにもう需要がないという状態に陥りやすくなるからです。

たとえば

  • 「これまでは評価されてなのに、急に評価されなくなった」
  • 「最近会社の言うことがコロコロ変わる」
  • 「何を求められてるのかわからない」

などと思ってる人は、もしかしたら、あなたがいる環境の複雑性や変化のスピードが上がっていて、少し前までそこにあったはずの需要がもう同じ場所にはないことに気づけず、需要が変化にもう追いつけていないかもしれません。

そう、周りの環境がおかしくなっているのではなく、あなたのかけているメガネがいつのまにか曇っている可能性があるわけです。

今の社会はどうなのかと言うと、変化が遅くなったと感じてる人は少ないはずです。変化の可能性が益々高まっています。デジタル化やグローバル化、コロナのような外部環境のドラスティックな変化によって、社会の変化はより早くなっています。

現在我々の置かれている環境は、ますます変化の激しい世界になっていて、需要はますます変化するようになっているのです。

キャリア構築というゲームのルール

周りの需要が急速に変化する環境になると、価値を出し続けるための方法はどう変わるのでしょうか?

そもそもキャリア構築というゲームは

自分が決めた領域で縦横無尽に動き回る「需要」という的に対して、自分の「供給」という矢を当てること、そして「需要」という的に「供給」が刺さった時に生まれる力(=価値)を大きくすること

です。

このゲームで得点を入るためには

1. 矢を当てる
2. 矢が当たったときのインパクトを大きくする

ことが求められます。

では、それらを実現するための方法を考えてみます。

よく的を狙え


まずは、需要を分析します

いまあなたの周りにどんな需要があるのかを知ることから始めます。何が求められていそうですか?どんな人が評価されたり、高い価値だと認識されてそうですか?それを分析します。上司に聞くことは、かなり有効な手段です。

何度も言いますが、キャリアとは需要という的に、供給という矢を当てるゲームです。狙う的がどこにあるのかわからないと、勝ちようがありません。それなのにあまりに多くの人が的を適当に捉え過ぎています。的を見てない人もいるくらいです。

まずは、需要(的の位置)を観察して、分析してください

矢の種類を増やせ

次に的に矢を当てる方法です。

1つ目のやり方は、「供給できる価値を横に広げる」ということです。これは、黄色を横に広げるイメージです。矢の種類を増やすことによって、的に当たる確率を上げる戦略です。

図で表すと、黄色を横に広げて、自分が提供できる価値のバリエーションを増やすことです。


具体的にいうと、これまでできなかったことをできるようになることです。仕事の幅を広げて、できることを増やします。少しくらい困難だと感じても、思い切ってチャレンジしてみます。これは自分の仕事じゃないなと思っても、できる限り仕事を拾ってみます。そうやって、自分の供給できる選択肢の引き出しを増やしていきます

僕はこれをキャリアを横に広げると呼んでいます。

矢のパワーを上げる

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これと似たもう1つの選択肢は、供給する価値を縦に掘るということです。これは、同じ矢でも当たった時のインパクトを大きくする戦略です。今まで手で投げていた矢を、弓で当てにいくイメージです。同じ矢でも当たった時の威力が違います。

図で表すと、供給できる価値の幅は同じでも、大きさが大きくなっています。


たとえば、専門職は縦に掘ることが価値に繋がることが多くあります。エンジニアが技術力を縦にどんどん彫っていくイメージです(もちろん縦に掘る一環で、技術力を横に広げることもありますが、そこはおいておきます)。今の領域で知らない知識をつけて、新しい能力を会得して、その分野での専門性をより高めていきます。

僕はこれをキャリアを縦に掘ると呼んでいます。

マネージメントやリーダーシップ、戦略構築など、どんな分野であっても普遍的に提供できる価値(言い換えると「需要の生存率」が高い需要)に対しては、縦に掘り続るのが有効です。「需要の生存率」というのは、需要分析する上での1つの軸になります。

需要の生存率

ここで「需要の生存率」という言葉が出てきたので解説しておきます。すごく大切な考え方です。

何度も言う通り、あなたが戦っているゲームは需要という的に供給という矢を当てるゲームです。そのために矢を増やし、弓を買い、鍛錬して自分の能力を上げます。

では、そもそもあなたが今狙っているその需要(的)はいつまでそこにいてくれるでしょうか?これが「需要の生存率」です。

需要には生存可能性が高いものと低いものがあります。たとえばマネージメントや経営、リーダーシップ、論理的思考力、そのような能力に対するマーケットからのニーズはそうそうなくなりそうには思えません。

一方で、特定の会社やチーム特有の知識やノウハウはどうでしょう?もちろん生存率が高いケースもあるかもしれませんが、多くの場合不安定です。AIが登場して、テクノロジーがあなたの仕事を代替できることなどと言えないはずです。

価値は需要と供給で決まります。狙う需要(つまりあなたの価値)を考える時には、その生存可能性を必ずセットで考えてください。

供給の希少性

もう1つ大切なことがあります。それは「供給と希少性」です。どれだけ需要に対して矢が当てられても、あなたの周りに同じ矢を放てる人がたくさんいたら、その価値は半減します。

逆に、需要が多くはなくても、その需要が本当に存在して(←ここ大切です)、その的に矢を当てられる人がマーケットにほんの少ししかいなけば、あなたの価値は大きくなります。

あなたの周りにどれだけ同じ矢を放てる人がいるのかも常に意識しましょう。

「縦に掘る」と「横に広げる」は全然違う

「キャリアを横に広げる」ことと「キャリアを縦に掘る」ことは、似たようで全く違うアプローチです。

キャリアを横に広げる戦略は、多様な需要に対応できるメリットがある一方で、自分の供給できることが薄まりやすくなります。どれだけ供給の引き出しを多く持っていても、1つ1つの品質が低いと、需要に刺さっても価値が生まれません。つまり、何でもできるけど、どれもそこそこでインパクトが弱いということが起こりやすくなるのです。

キャリアを縦に掘ることは、需要があまり変化しない場合は高い価値を出せますが、一番のリスクは需要の横の変化には弱くなります。どれだけその分野で稀有な専門性を身につけても、需要が消えてしまったら全く意味がなくなってしまいます。

これを武井壮は「とんがり」と表現しました。上手い表現だなと思って自分も使っています。




もしあなたが狙っている需要が、これからそれほど変化しないと思うなら、キャリアを縦に掘ることはいい選択かもしれません。たとえば、これから10年間転職しないと思えば、少なくともその10年間は今の会社で価値を出すためのことだけを考えればいいので、会社が変わることで発生しうる需要の横の変化は無視できます。

しかし、その会社の中であなたの部署や製品の需要は変わらないでしょうか?もし変わると思えば、横に需要が変化する可能性があるので、その会社のなかでも強みの幅を横に広げて供給できる価値を広げておくことが得策です。

キャリアを縦に掘るときには需要に敏感である必要があります。繰り返し言いますが、どれだけあなたが投げた矢が需要に刺さった時に生まれる価値が大きくても、そもそもそこに需要という的がないと全く意味がないんです。

キャリアを縦に掘りたいと思う人は、その需要の存在を誰よりも意識しておく必要があります。

需要を分析し、そこについていく

キャリアと言うと、好きとか嫌いとか、何をしたいかとか、夢とか、目標とか、そのような会話になることが多くあります。

最近では好きなことを仕事にすることがあたかも当たり前のように捉えられているようです。好きじゃないことを仕事にする事は不幸なことであると言う考えを持っている人も多いと聞きます。

もちろん好きなことを仕事にする事は人生を豊かにするために重要なことかもしれません。しかし、それとは全く次元で、私たちはどんな人も需要と供給のゲームの中にいます。これは紛れもない事実なのです。

私たちがやるべきことは、「需要と供給」というゲームのルールを理解し、需要を冷静に分析して、キャリアを横に広げたり、縦に掘ったりしながらそこについていける力をつけることです。

それが、私たち1人1人が自由に仕事にするための近道だと考えています。

参考

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